九州大学薬学研究院薬理学分野


1.難治性疼痛発症維持メカニズムの解明


世の中にはモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬でさえも効かない痛みに苦しんでいる患者さんが多くいます。神経障害性疼痛はその代表の一つ。普段では痛みに感じな い軽い触刺激が激痛を生むアロディニアという病態が特徴的です。メカニズムがよく分かっていないので有効な薬もありません。私たちは、神経障害性疼痛モデ ル動物では脊髄ミクログリアが非常に活性化し、アデノシン3リン酸(ATP)などをアゴニストとするATP受容体の仲間P2X4がそこで異常に発現増加し ていること、そしてP2X4受容体の働きにより、触刺激が激痛を引き起こすことを突き止めました(図1)。さらに詳しい研究から、ミクログリアやアストロ サイトと言ったグリア細胞がこのような痛みに深く関与することを明らかにしています。そしてグリア創薬から優れた鎮痛薬を生み出すことを目指しています。 (Nature Japanで紹介されました

図の説明
神経障害性疼痛発症モデル動物では、
①インターフェロン(IFN)γ等により脊髄ミクログリアが活性化し、
②細胞外マトリックス分子フィブロネクチンとミクログリア細胞膜インテグリンα5β1を介する細胞内情報伝達、およびケモカインの一種CCL21等により P2X4受容体が過剰発現する。
③ATPによるP2X4受容体刺激により細胞内Ca2+上昇、p38 MAPキナーゼリン酸化を経てミクログリアから脳由来神経栄養因子(BDNF)が放出される。BDNFは脊髄後角の二次ニューロンに働き、KCC2の発現 を抑え、細胞内のCl-濃度を高める。
④触刺激によって介在ニューロンから放出されたGABAは二次ニューロンに作用してCl-チャネルを開く。
⑤この病態下では、正常時とは逆にCl-イオンは細胞内から細胞外へ流出する。これは二次ニューロンを電気刺激することと同じ効果を生み、二次ニューロン は脱分極してスパイクを発生し上位脳に伝達されて激痛として誤認識される。




2.神経損傷後の脊髄内ATP供給メカニズムの解明


 
私たちは、神経障害性疼痛モデル動物では脊髄ミクログリアが非常に活性化し、アデノシン3リン酸(ATP)などをアゴニストとするATP受容体の仲間 P2X4がそこで異常に発現増加していること、そしてP2X4受容体の働きにより、触刺激が激痛を引き起こすことを突き止めました。 また、こうした脊髄内ATPが、どの細胞からどういったメカニズム(例:放出、漏出)で供給されるのかは全く明らかになっていません(図)。そこで、現在 ATPの供給メカニズムの全容解明を目指して研究を続けています。






3.ATP受容体を標的とした難治性疾患に対する治療薬の開発


 
九州大学化合物ライブラリー創薬先端研究・教育基盤センター(link)






4.ミクログリアの運動能に関する研究


 上記のように、活性化ミクログリアは神経障害性疼痛発症に重要な役割を担っていますが、またATP受容体等の刺激により、走ったり、貪食したり、きわめ て活動的です。そのメカニズムは未だよくわかっていません。私たちは高度な実験機器を使ってその詳細を明らかにしようとしています。